tidal

MUSIC

JAY-Zが言う音楽の価値を取り戻すということ

  • ARTICLE - No.5
  • issue-2015.4.13   
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Posted by Keisuke Aratsu
POP1280

世界中のユーザーが音楽にお金を払わなくなって来ているのはまぎれもない事実の1つで、それにともないアーティストは収入源の1つとして楽曲をリリースするメリットを失いつつあると思う。
もしくは販売店がそんな状態に追い込まれているのかもしれない。90年代のように過剰なテレビコマーシャルは陰を潜めてしまったし、ストリーミングサービスの台頭との押し合い合戦に疲弊したメジャーレーベルもするすると手を引いていったように思う。

メジャーレーベルが衰退した事によりインディーで頑張っていたバンドが出て来やすくなったのはいいことだと思うんですが、
正直メジャーレーベルというフィルターを通さなくなってしまった結果、大した曲も書けていないのにもてはやされるバンドやアーティストが増えてしまったこともまた事実だと思う。
メジャーから声が掛かっているにもにも関わらずインディーにサインするっていう反骨っぷり(アークティックモンキーズも複数オファーがあった中からDominoを選びましたね)が好きな僕としては今の構図はなんだかなぁと思ってしまう。
それは個人的な好みなので置いておいて、何で今皆が音楽にお金を払わなくなってしまったのか?音楽の価値を取り戻すとはどういう事なのか?っていう事について考えたいと思います。
かなりの長文になるかと思いますがご勘弁を。

インターネットとシェアの功罪

一概には言えないけど皆が音楽にお金を払わなくなってしまった原因はここにあると思う。今はネットでアルバム全曲試聴も気軽に出来るし、気になるバンドやアーティストがいればyoutubeで気軽に過去の作品を遡っていく事もできる。
だから以前のようにお店に足を運ぶ必要が無くなってしまった。お店にいかなくなるという事は当然そこでお金を落とさなくなるという事。お店は当然儲からない。だからお店をたたまざるを得なくなる。もしくは売り上げが見込めるものしか置かなくなる。
で、結局アマゾンみたいな巨大在庫を抱えるお店が最強となってそこで自分の欲しい物を探すようになってしまう。(お店に自分の欲しいものがなくて結局取り寄せになるくらいなら始めからアマゾンで探したほうが早いですし)
そうすれば街に音楽を買う・試聴する場所は無くなっていき、結局インターネットで物事が完結してしまう事になる。
ただ、インターネットが普及した事によりデジタルデータで欲しい音源をすぐに購入する事ができるようになったのも事実だからこれは凄く便利がいいことだと思う。
でも、ここにも落とし穴はあって、データでやりとりするものだから1度手にしてしまえばそれは誰かの目にとまらない限り友達だったり不特定多数の人達にデータを渡してしまう事だって簡単に出来てしまう訳である。
これをやられてしまうとアーティストはたまったものではない。1000人に音源を売って100万円の利益を手にする事ができるとするなら、その中の誰か100人が音源を買ったとしても残りの900人にそれをシェアされてしまったら単純に売り上げは10万円になってしまう。契約状況もあるし、この例はさすがに極端な数字だとは思うけど、これでアーティストに入る取り分はいくらになるのだろうか?4人なり5人で分割するとしたらそうとう厳しい数字になるんじゃないかと思う。
これでは自分たちの志した道で食べていけず、結局解散して別の仕事に就くしかなくなってしまう。たくさんのファンがいてもこれでは切なすぎる。

音楽の価値を取り戻す

これは先日JAY-Zが発表したストリーミングサービス「tidal」の会見で本人から言われたコンセプトだそう。
これはアーティスト側からすれば至極当然の考え方で、自分たちが長い時間と大量の資金を使って作った音楽をただ同然でリスナーに提供されるのはこれ以上は勘弁だ。
っていう事なんだろうと思う。リスナーから言えば「JAY-Zの新譜まだかなー」とか「Taylorの新譜まだかなー」くらいの気持で待っていればいいのかも知れない。
だけど曲を作っている本人たちはそうはいかない。大抵の場合リスナーを何年も待たせているし、当然アーティストから言わせると自分たちの楽曲を作って売る訳だから駄作を作ってリスナーをがっかりさせる訳にもいかない。
それは彼らがプロだからだと思います。だからそんな気持で曲を作っているはずだと僕は信じています。
だけどリスナーはそんな気持おかまい無しに何とか安く音楽を手に入れようとする。そんな風にみえてしまう。それじゃアーティストが浮かばれないと思う。
新譜リリースまでの2年や3年のインターバルの中で彼らは楽曲制作だけに注力しているわけではなく、ツアーに出たり、テレビやラジオに出たり、雑誌の取材を受けたり、時には休暇を取ったり、好きな人に会ったり、行きたい場所を訪れたりしている。
そして自分の生活をより良くするために自分の音楽を発表してそれを生業とする。
それは単純に生きていく為にお金が必要だし、生活のためだけじゃなく音楽を作る為のお金だって必要であるから。

tidalの発表

だからJAY-Zは昨今のSpotifyの様に安価、もしくは無料で音楽をストリーミングさせるサービスに待ったをかけて、「titdal」を発表したんでしょう。
このサービスは前述のSpotifyの約2倍の取り分がアーティストに印税として分配されるようになっており、
さらにはSpotifyのようにフリープランはなく月額10〜20ドルのプランを準備しているからユーザーは必ずお金を払わないと行けない仕組みになっている。(Spotifyの分配については昨年トム・ヨークとナイジェル・ゴドリッチも批判していましたね。最近ではテイラー・スイフトもそうですが)
ただ、このtidalというサービスは高音質での楽曲配信をするので実際にはニッチな層へのアピールにしか繋がらないのではという懸念も聞こえてくるそう。実際のマーケティングでは、ユーザーは品質よりも利便性を優先するという結果も出ているそうなので、tidalがこの先成功を納める事ができるかは分からないですが少なからずアーティストにお金が還元される仕組みの1つとして成立して欲しいなと思います。

音楽の価値を取り戻すPart2 – 音楽を買うという事

さっきまでJAY-Zの話を進めていましたが次はJAMES BLAKEに話を移します。
彼が2ndアルバム「overgrown」を発表する際に、こんな事を言っていました。
「今や音楽が売れないからスタッフがどれだけ涙ぐましい努力をしているか、僕はそのすぐ傍でそれを見ているんだよ。皆にレコードを買ってもらえるようにwebサイトの作りを変えたり、色んな施策を練ったり、それは本当に涙ぐましい努力なんだよ」
1stアルバムで鮮烈にデビューした彼でさえこんな地味な裏方に支えられて音源を売る努力をしています。そうしないとレーベルがつぶれるどころか自分も音楽活動をやめる必要が出てくるかも知れないからです。
でも皆が音楽を買えばそんな必要はない。輸入盤にすればCDで大体1500円くらい、アナログは少し高くてその倍くらい。最近はカセットも人気が出て来てるからそれを買う事だってできる。
レコードやカセットの人気が再燃しているとはいえ、日本での音楽を聞くフォーマットのメインはまだCDみたいだからCDどんどん買えばいいと思う。増えていくと置き場所に困るけど。もしくはデジタルで買ったっていいと思う。バックアップ取ってないとデータ吹っ飛んだとき怖いけど。
だって確かにその時には1500円とか3000円とか払わなきゃいけないけど、その1500円や3000円が一生ものの宝物になる可能性だってあるわけだからそれは無駄な出費ではないと思うんですよね。
現に僕が15歳の時に買ったRADIOHEADのOK Computerは今でもずっと聞き続けてる名盤中の名盤です。当時中学生だった自分に2500円の買い物はなかなか高額だったけどこれは本当に買って良かったと思う。
こういう出会いがあるから音楽を買う事は素晴らしいと思うんです。
だから本当は皆が皆、フィジカルだったりデジタルでアルバムを買っていればJAY-Zがtidalを発表する必要はなかったんだと思います。
少し話しは飛ぶけど、日本ではサービス残業という言葉が定着して久しいですが、実際サービス残業という辛酸を舐めさせられている方は少なくはないと思います。例えば仕事が山のように降ってくる、定時は過ぎてしまう、だけど山のようにタスクは残っている、そしてトドメの「サービス残業」要するにただ働きってヤツですね。
それをアーティストに置き換えてみるとでうでしょう?
本来売れるはずの音源が思うように売れず、挙げ句の果てにはリスナーからは「次の作品もよろしく」みたいな風に構えられると、絶対嫌な気分になると思う。ただ、音源は買わずにライブには足を運ぶって言うタイプのリスナーもいるはずだからここの捉え方は難しい。

最後に

音楽の価値なんて言ってもそれがどういうものなのか僕には分からない。とても難しい。
いずれにせよ、人の作ったものにはそれ相応の価値があります。あると思ってます。小説だって漫画だって、伝統工芸品だって、アプリケーションだって、人が作ったものには敬意を払って接するべきだと思う。何故なら自分には作れないものをその人たちが作っているから。だから僕はそれにお金を払います。ただで仕事やってくれなんてムシのいい話はない訳で。「音楽の価値」っていう所で記事を書いたけど、実際のところ、自分が作れないものを他人が作っている、という所に価値があるんです。
音楽に関して言えばデータなんて目に見えないけど、それを作った人がいるからそのデータから音楽が流れてくるんだという事を分かってもらいたい。アーティストだなんて横文字でかっこいい名前だけど、ものを作るって言う意味においては職人技の元になりたってると僕は思います。
ただ、JAY-Zなんていう大物が動いたからにはアーティスト側にとっても今のマーケットの構造っていうのは少なからずアーティストサイドにとって深刻なものなんだと思う。僕は自分に出来る事としてこれからもCDなりアナログなり買っていこうと思います。

好きなバンドにはできるだけ長く活動して欲しいし。
バンド、頑張れ。
不景気、さっさとどっか行け。

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アラツ ケイスケ :
福岡県糟屋郡志免町在住。畑で野菜を育てて生きていきたいwebデザイナー。嫌いなものはクチャラー。1984年10月生まれ。昨年三十路デビューしました。音楽とB級映画をこよなく愛す一面、垂れ流すだけで何を聞いたか観たのか全く記憶にないこともしばしば。(大抵寝落ちしてるか、本を読んでます。)
このブログでは自分が書きたい音楽の事やデザインの事、福岡の事を好きなように書いて行くつもりです。記事掲載のご相談も受け付けますのでどうぞお気軽に。随時受け付けます。僕がバテあがってたらお返事までお時間掛かると思いますが悪しからず。

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